はじめに
緑内障という疾患名はほとんどの方がお聞きになったことがあるでしょう。日本では失明原因の第1位の疾患です。
漠然と恐い病気であると思われていますが、緑内障を充分理解していない方がほとんどです。
また、年寄りの病気だから私は関係ないと思っていらっしゃる方は多いのではないでしょうか?2001年の大規模な緑内障疫学調査(岐阜県多治見市で行われた日本緑内障学会多治見緑内障疫学調査多治見スタディ)の結果で40歳以上の日本人のうち5.78%(17人に1人)は緑内障であることがわかり、そのうちの大部分の人たちが自分自身で緑内障に気付いていないことが判明しました。
治療を受けている人はわずか2割程度ということです。緑内障と一言で言っても実はいろいろなタイプがあります。 急速に進むタイプの緑内障もありますが、ほとんどが5~10年と長い年月を経て視野がゆっくり欠ける疾患です。
両目で見ると視野をカバーしあうため、初期段階では自覚症状がなく、視野が欠けていると気づいたときには末期となっているケースが多いのです。
一度失われた視野は、残念ながら治療によっても戻りません。そのため失明しないためには、早い時期に発見しその進行を抑えることが重要です。
緑内障の進行
緑内障で視野の欠けた部分は視神経が障害された部分のため、患者様にとって黒にも白にも灰色にも色を感じることはありません。
あくまでも見えている部分だけのイメージです。
正常での盲点はマリオネット盲点と言われ、眼底の視神経乳頭の部分に対応した視野ですが、通常自覚することはありません。
同様に初期の緑内障では、全く視野の欠けには気づきにくいのです。
徐々にゆっくり視野が欠けていくので、自覚症状がない場合が多いです。
片方の目で補ってしまったり、視点をちょっと動かしてしまえば、全体を見ることができるので、なかなか気がつきません。
片方の視野が広いと末期でも気がつかない場合があります。
緑内障とは 今と昔
古くから『緑内障は眼圧の上昇と上昇した眼圧による一時的あるいは永久的な視神経障害の現れである視機能障害を特徴とする眼疾患である。』と定義されていました。
つまり、緑内障は眼圧が高くなることによって視神経が障害され、視野が欠けていく病気と理解されてきました。
例外として眼圧が高くないのに視神経乳頭陥凹や視野欠損を呈するものを低眼圧性緑内障(今は正常眼圧緑内障と言われるようになりました)と呼んでいました。
しかし、前述の緑内障疫学調査で緑内障患者の約7割において眼圧が高くない正常眼圧緑内障であることがわかりました。
最近では緑内障の定義から『眼圧の上昇』がはずされ以下のように変更されました。
緑内障とは、『視神経と視野に特徴的変化を有し、通常、眼圧を十分に下降させることにより視神経障害を改善もしくは抑制しうる疾患である。』
と定義されました。
改めて、緑内障を緑内障性視神経症(緑内障に特徴的な視神経障害と視野障害を有す)と定義しました(2006年 緑内障診療ガイドライン第版より)。
緑内障の早期発見には
40歳を過ぎたら、眼科で目の検査を受けましょう。
眼底の検査で視神経乳頭陥凹や視神経線維層欠損の有無、眼圧、細隙灯顕微鏡検査などをしてもらいましょう。
必要と判断された場合は視野検査も行います。
特にご両親やご兄弟に緑内障の方がいらっしゃる方は緑内障になる確率が高いので診断されることを怖がらずに積極的に検診を受けていただきたいと思います。
緑内障の分類
大きく分けて、原発閉塞隅角緑内障と原発開放隅角緑内障があります(原発とは他に原因を求めることができないという意味です)。
眼球はまぶたの上から触ってみるとわかりますが、球形で柔らか過ぎず硬過ぎず、ちょうど良い硬さ(眼圧)に保たれています。
眼球の中はほとんどが水分でできていて、眼球の中でできる水の量と眼球の外に逃げていく水の量がつり合っていて眼圧を一定に保っています。水が逃げていく排水路が狭く塞がることが原因の緑内障を閉塞隅角緑内障と言います。
ただし、隅角閉塞があっても眼圧上昇や緑内障性視神経症のない例、または眼圧上昇を認めても緑内障性視神経症のないものをprimary angle closureを邦訳し原発閉塞隅角症と定義することになりました(2006年緑内障診療ガイドライン第2版より)。
原発閉塞隅角症は原発閉塞隅角緑内障の前段階であり無治療では原発閉塞隅角緑内障に進展する可能性の高い疾患です。
排水路は広いのに目詰まりが原因の緑内障を開放隅角緑内障と言います。
その他に、他の目の病気に続発してくる続発緑内障や生まれつきの先天緑内障(発達緑内障)などもあります。
治療
- 薬物治療
以前は、緑内障手術は多く行われていましたが、原発閉塞隅角緑内障を除き、点眼薬による眼圧コントロールが主流となっております。
近年、優秀な目薬が多く開発されております。
しかし、どんなに優れた目薬であっても、付け忘れたり指示どおりに使用しないと充分な眼圧下降効果が得られず、結果的に少しずつ視野が悪化してしまう可能性があります。
目薬は一回一滴入れば充分な濃度に調整されています。一度に2滴以上つけると角膜炎を起こしやすくなります。
目薬をつけたら、3~5分目頭を押さえて目を閉じていると眼球に薬が吸収されやすくなりより効果的です。
2種類以上の目薬をさすときは30分以上おいてさしましょう。
立て続けにさしてしまうとはじめに付けた薬を流してしまい効果が半減してしまいます。
要冷蔵や遮光の必要な点眼薬もあります。
そのため当クリニックでは、緑内障の患者様の点眼指導を一人1人のライフスタイルに合わせて充分に行っております。
では、どのぐらい下げれば良いのかと言うと、眼圧の高い緑内障では15mmHg以下を目標に、正常眼圧緑内障では無治療時の眼圧を何度か測定してベースラインの眼圧とし、それより20~30%下げることを目標とします。
特に視野障害の進行例では充分に眼圧を下げます。
- レーザー治療(※痛みのない治療です)
急性の緑内障発作(急激に眼圧が上がり眼痛や霧視、頭痛、嘔気、嘔吐などの症状が出現する)を起こしやすい原発閉塞隅角緑内障と原発閉塞隅角症が良い適応となります。
この疾患では、発作後に治療することも可能ですが、発作を起こす前の原発閉塞隅角症の段階で予防的に治療することができます。
虹彩(茶目)の周辺部にレーザーで小円形の孔を開けて眼内の水の流れのバイパスを作るレーザー虹彩切開術(laser iridotomy: LI)をすることによって隅角を広げ緑内障発作を防ぐことができます。
ただ近年、レーザー治療による合併症として角膜内皮細胞の減少により角膜混濁を来す角膜水疱症が問題となっておりますが、当院では、術前術後の角膜内皮細胞検査を必ず行い、アルゴンレーザーとヤグレーザーの併用(主にヤグレーザー)により角膜内皮に与える影響を最小限にする努力をしております。
原発開放隅角緑内障の患者様でも点眼薬で充分眼圧コントロールができない方などには選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT:selective laser trabecloplasty)をお勧めすることがあります。
眼内の水が外に出る排水路である線維柱帯という部位にヤグレーザーを照射することによって房水流出抵抗を減少させ眼圧下降を得る治療方法です。2001年にFDA米国食品医薬品局により承認された新しい治療法です。
低侵襲の治療で何度も再照射が可能です。
ただし全例に効果があるわけではなく60~70%に有効と言われております。
県内ではまだ数台しか導入されていないレーザー治療器ですが、開業時に導入し、これまで点眼で眼圧が下がらなかった患者様達から、SLT後に眼圧が下がり大変喜ばれております。
- 手術
白内障は手術をすれば見えるようになりますが、緑内障は手術を受けても欠けてしまった視野を元どおりに治すことはできません。
薬物治療やレーザー治療など他の治療法によっても十分な眼圧下降が得られない症例が適応となります。
手術は眼圧を下げる目的で、目の中の水を外に逃がすための排水路を作る手術です。